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『名古屋城・天守木造復元の落とし穴』毛利和雄著 の書評

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 しんぶん赤旗日刊紙(2024年9月8日)書評欄に、『名古屋城・天守木造復元の落とし穴』毛利和雄著の書評を依頼され、書きました。以下、書評欄に掲載の内容です。

 戦災で大半が焼失した名古屋城。現天守は鉄筋コンクリートで1959年に再建された。河村たかし市長は当選した2009年、現天守は老朽化しているうえ耐震性能も不十分だとして、解体して木造で復元すると表明。市としての事業が始まった。

 本書は同事業の経過を詳細に追い「天守の整備のあり方は仕切り直しを」と提案している。

 16年に市が実施したアンケートでは、市長が提案した2020年までの木造復元案が21・5%、時期にとらわれない木造復元案が40・6%。現天守を耐震化する案は「40年の寿命」という特記がされていたにもかかわらず26・3%で、市長案を上回った。しかし市長は「木造復元が6割を超えた」と強弁。個人の思いで事業を進めている。

 新設の市設建築物なら当然であるバリアフリー化に背を向け、市主催の市民討論会では、エレベーター設置を求める障がい者に対して差別発言が出ても制止せず、市長閉会あいさつでは「熱いトークが交わされた」とまとめた。あまりにひどい姿勢に非難が集まり、事業が中断することになった。

 現天守は再建を望む市民の声によって生まれた戦後復興の象徴、平和の象徴であり、外観は先人の詳細な資料に基づいて再建された文化的価値の高いものである。竣工の直前、名古屋地域には伊勢湾台風が来襲したが、直後に完成した天守は、そこにあるだけで人々の心の支えになったのではないか。

 日本共産党は、木造復元には「市民合意もなく、市民の思いが込められた現天守閣の解体につながる。…税金の投入、市民負担につながる恐れがある」と反対している。必要なのは、現天守の耐震化とともに内部のリニューアルや、戦災で焼失した東南隅櫓の再建など城全体の整備を進め、城跡としての魅力を向上させることではないか。

 本書が紹介する、全国の城の復元・修復事情も参考になる。議論の材料にしてほしい書だ。

 評者 江上博之 日本共産党前名古屋市議会議員

 (了)

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